即答させると答えが”浅く”なる!? AIにも”考える時間”をあげてくれ
――いつもの喫煙所。カズが電卓アプリを睨んだまま、火をつけるのも忘れている。
なあアキ。昨日、AIに騙されかけた
物騒だな。今度は何を頼んだんだ
外注先選びだよ。見積もりが2社から来ててさ、両方まるごとAIに渡して『どっちがいいと思う?』って聞いたんだ。ちゃんと囲って渡したからな、この前教わったとおり。そしたら即答よ。1秒で『B社がおすすめです。費用が安く、実績も十分です』って、自信満々でさ
即答か。頼もしいじゃないか
俺もそう思って、上司に『B社で進めます』ってメール書きかけたの。で、送る前にふと、数字は裏を取れって誰かさんの声がしてさ。電卓で確かめたら——B社、初期費用は安いけど月々の保守が高い。2年の総額だと、A社のほうが安いんだよ
ほう。で、AIの答えのどこにその計算があった
どこにもねえんだよ!! 『安くて実績十分』の一点張り。なあ、なんであいつら、あんなに自信満々なくせに、答えが浅いんだ!?
原因は一つだ。カズが、考える時間をやらなかったからだ
考える時間ん!? AIなんて一瞬で答えるのが売りだろ
その一瞬が曲者なんだ。思い出せ、AIは”次に来そうな言葉”を並べる予測マシンだったろ。『どっちがいい?』って聞かれた瞬間、答えっぽい言葉から書き始めちまうことがある。『B社がおすすめです』——で、一度そう書いたらどうなるか。そのあとの文章は全部、最初の一行の正当化だ
え、途中で『あれ、計算したらA社のほうが安いぞ』ってならないのか
ならない。もう『B社』って言っちまってるからな。言った手前、あとの言葉は全部そこに辻褄を合わせにいく
いるわ、そういう人間。会議でいきなり『どう思う?』って振られて、口から出た意見を後から必死に理屈で固めるやつ
カズのことか
俺のことだよ。放っとけ
だから対策も人間と同じだ。いきなり結論を言わせない。先に段取りを踏ませてから、結論を出させる
……いや、待てよ。段取りを踏むって、あいつらどこで考えるんだ? 頭の中とか、あるのかよ
いい質問だ。AIに”頭の中”は無い。あいつらにとって、考えるってのは書くことなんだ。前に机の話をしたろ——会話の文章は全部机の上の書類になって、AIは毎回それを読み直して次の言葉を出す。で、机に載るのはお前が書いた文章だけじゃない。AI自身が書いた文章も、書いたそばから机に載る。だから途中の検討を書かせれば、自分のメモを読みながら答えにたどり着ける。書かせなきゃ、メモゼロで結論を口走る
あー……つまり、暗算やめて筆算しろってことか
うまいこと言うな。途中式を書けば間違いに気づくのは、人間もAIも同じだ。……いや、あいつらの場合はそもそも頭が無いんだから、書くしか手が無いんだがな
で、どう頼めばいいんだ
2段階ある。軽い依頼なら、一言添える。『まず論点を洗い出してから、結論を出して』『段取りを踏んで考えて』。これだけで、結論に飛びつく前にワンクッション入る。大事な判断なら、工程表ごと渡す。今回なら——『①2社の条件の違いを表にする ②2年間の総額をそれぞれ計算する ③安さ以外のリスクを挙げる ④最後に結論』。検討してほしいことを、順番ごと指定する
工程表って、あれだな。新人にでかい仕事を頼むときと同じだ。『いい感じにやっといて』じゃなくて、手順を書いて渡す
そのとおりだ。しかも気づいてるか、工程表の中身は、カズの判断基準そのものだぞ。『2年総額で比べろ』ってのは、カズの会社の事情だ。書かなきゃ検討にすら入らない——お前の頭の中は読めないんだ、って何度も言ったろ
はいはい、俺が悪うございました。……よし、じゃあこれから全部の依頼に『段取り踏め』って付けるわ。即答はもう信用しない
それがそうでもない。一発で終わる仕事は即答でいい。敬語に直す、表に整える、短い文の要約——途中に落とし穴が無い仕事に段取りは要らん。遅くなるだけだ。効くのは判断・計算・比較、途中を飛ばすと事故る仕事だ。それにな、面白いことに、考えさせると逆に下手になる仕事もある
あるのかよ、そんなの
人間にもあるだろ。目撃者に犯人の顔を言葉で細かく説明させると、そのあとの面通しで逆に当てられなくなる——って有名な研究がある。言葉にすると壊れる直感ってやつだ。AIも同じでな、直感で当てる系の問題に段取りを踏ませたら、成績が36ポイント落ちたって報告がある。多段の仕事には段取り、一発の仕事には即答。使い分けだ
AIまで、人間と同じ壊れ方すんのか……
にしても、ほんとかね。『段取り踏め』の一言でそんなに変わるなら、誰も苦労しないだろ
その”一言の威力”を、真面目に測ったやつらがいるんだ
💡 アキの補足:5つの単語が、AI業界を変えた 「2022年、東京大学とGoogleの研究チームが、変な実験をした。AIへの質問の最後に**『Let’s think step by step(一歩ずつ考えよう)』と一言添えるだけで何が変わるか、ってな。結果——算数の文章題の正答率が17.7%から78.7%。4倍以上だ。もっと難しい算数のテストでも10.4%が40.7%になった。追加の学習なし、見本なし、足したのはたった一文。それだけでだ」 「で、この話にはおまけがある。この発見は、そのまま製品になった。最近のAIに『考え中……』って表示を出して、長々と下書きしてから答えるモードがあるだろ。ああいう”考えてから答えるAI”(推論モデルって呼ばれてる。Claudeの拡張思考なんかがそれだ)は、『書きながら考えると賢くなる』って性質を、頼まれなくてもやるように組み込んだものなんだ。あの5単語の呪文は、いまやAIの標準装備になった」 「ただし、普段の速いモードは今も即答型だ。それに、考えるモードだって『何を検討してほしいか』まではお前の頭から読めない**。工程表は、こっちが渡すもんだ」
呪文ひとつで4倍て……。俺が昨日欲しかったの、その5単語だったわけか
5単語と、工程表だな。『2年総額で比べろ』は、あの呪文には入ってない
まとめるぞ。大事な判断は、いきなり答えさせるな。論点を洗い出させる。工程表を渡す。結論は最後。それだけで、即答の浅さはほぼ消える
よし、覚えた。じゃあ早速使わせてもらうぞ。——アキ、お前の持ちネタの『AIの語源は”愛”』な、あれを段取りを踏んで説明してくれ。①根拠を並べる ②筋が通ってるか自分で確かめる ③最後に結論、な
いいだろう。①根拠。AIという綴りは、ローマ字で読めば”あい”。日本語で、愛。②検証。……
②で止まったな
…………
ほら、③結論は?
この工程表は、俺が不利になるように設計されている
嘘ってのは、勢いでしか言えねえんだよ
📝 今日のまとめ
- AIは”次に来そうな言葉”を並べる予測マシン。聞かれた瞬間に結論から書き始めると、残りは全部その正当化になる——自信満々なのに浅い即答の正体。
- AIにとって考える=書くこと(暗算でなく筆算)。途中の検討を書かせれば、自分のメモを読みながら答えにたどり着く。頼み方は2段階:①一言型(「まず論点を洗い出してから結論を」)/②工程表型(「①違いを表に ②総額を計算 ③リスクを挙げる ④最後に結論」)。工程表の中身=あなたの判断基準。書かなければ検討されない。
- 効くのは判断・計算・比較(途中を飛ばすと事故る仕事)。一発の変換仕事は即答でいい。逆に、考えさせると下手になる直感系の仕事もある(研究で36ポイント低下の例)。
- 「Let’s think step by step」の一言だけで算数の正答率が17.7%→78.7%(2022年・東大×Googleの研究)。この性質は、いまの”考えてから答えるAI”(推論モデル)の土台になった。