AIの答えが毎回長すぎる人は、“形”の注文を忘れている
――いつもの喫煙所。カズが、スマホの画面を親指で延々とスクロールしている。
ずいぶん熱心だな。長編小説でも読んでるのか
AIの返事だよ。会議の5分前にさ、『この資料、要約して』って頼んだの。そしたら見ろ、この大作。序論から始まって、背景、論点が3つ、それぞれに考察までついてる。……会議、始まっちゃったよね。読み終わる前に
立派な要約じゃないか
立派すぎるんだよ! 俺が欲しかったのは3行だぞ。廊下を歩きながら読める3行。なんで頼むたびに、こう……卒業論文みたいなのが返ってくるんだ?
原因ははっきりしてる。カズが中身の注文だけして、“形”の注文をしてないからだ
形?
『要約して』は、何を作るかの注文だ。でもどんな形で出すか——3行なのか、表なのか、箇条書きなのか——それを一言も言ってない。つまり形は”お任せ”にした。で、お任せにしたら何が返ってくるか、カズはもう知ってるはずだぞ
……あ。書かなかった分は、世界の平均で穴埋め
そういうことだ。形式も、穴埋めされるんだよ。世界中の文章の平均を取るとな、『丁寧で、網羅的で、長い』が出てくる。誰にも怒られない優等生の形だ。カズの卒業論文は、AIが真面目に平均を出した結果なんだ
なるほどな……。いや、でも待てよ。後から『3行にして』って言えば直してくれるだろ。実際、直るし
直る。直るが、3つ損してる。ひとつ、往復が倍になる。1回で済む注文を2回してる。ふたつ、最初の長文を読む羽目になる。直してもらう前に『どこを残すか』を確認するのはカズだろ。みっつ、これが一番怖いんだが——直すとき、中身が変わることがある。長文を3行に縮めさせると、AIはもう一回要約をやり直す。そのとき、さっきはあった大事な一文が、しれっと落ちたりする
うわ、それ経験ある。直させたら、欲しかった数字が消えてた
だろ。だから形は先に決める。あとから整形じゃなく、最初から型に流し込む。注文は3つの型で覚えとけ
ひとつ、形を名指しする。『3行で』『表で』『箇条書き5点で』『200字で』『ですます調で』。一言添えるだけだ。ふたつ、見本の枠を渡す。『この形で埋めて』って、見出しだけ書いたテンプレを貼る。【結論】【理由】【次にやること】——枠を渡せば、AIは枠に入れてくる。みっつ、使い道を言う。『このままチャットに貼って共有する』『上司に転送する』。用途が分かれば、AIは形を勝手に合わせてくる
名指しか、枠か、使い道か。……ふたつ目のそれ、あれだな。料理を頼むときに、先に弁当箱を渡すんだな。ここに主菜、ここに副菜って
うまいこと言うな。そのとおりだ。弁当箱を渡せば、大皿料理は出てこない。箱の形に合わせて、中身の選び方まで変わる——そこが肝でな。3行と指定されたAIは、3行に入る大事なことから選び始める。形の注文は、実は中身の注文でもあるんだ
にしても、形くらいで大げさだな。しょせん見た目の話だろ?
それがな、俺たちにとって”形”は見た目じゃ済まないんだ。ちょっと怖い話をしてやろう
💡 アキの補足:AIは”形”に、人間が思うよりずっと敏感 「『形式なんて飾りだろ』と思うだろ。ところが研究の結果は逆でな。2023年の研究で、質問の中身は一切変えず、書式だけ——空白や記号の付け方だけを変えてAIに大量のテストを解かせたんだ。結果、正答率が最大で76ポイントも振れた。同じ問題、同じAI、違うのは”形”だけでだ」 「2024年にはマイクロソフトの研究チームも似た実験をやってる。プロンプトを普通の文章で渡すか、箇条書きや構造化した形で渡すかで、GPT-3.5の成績が最大4割変わった。つまり俺たちは、中身と同じくらい”形”を読んでる。形を運任せにするってのは、答えの質を運任せにするのと同じなんだよ」 「だから、形の注文はケチるな。『3行で』の5文字が、後工程をまるごと消す」
形だけで76ポイントて……。見た目の話じゃなかったわ
ああ。形は、俺たちの読み方そのものなんだ
まとめるぞ。中身の注文と、形の注文。この2つで依頼は完成だ。3点セットの③出力形式——あれは飾りじゃなく、一番安くて一番効く注文だからな。省略するな
分かった分かった。じゃあ早速、実践させてもらうわ。——アキ、今日の話の要点をくれ。形式指定:一言で。自慢は禁止。「どうだ」って顔も禁止
…………
おい、出力しろよ
その形式には対応していない
威張らないと喋れないのかよ
📝 今日のまとめ
- 形式を”お任せ”にすると、AIは世界の平均の形(丁寧・網羅的・長い)で返してくる。長すぎる答えは、形の注文を忘れた合図。
- 後から直させると3つ損:往復が倍/最初の長文を読む羽目になる/直しの際に中身が変わる事故。形は先に決める。
- 注文は3つの型:①形を名指し(3行で・表で・200字で)②見本の枠を渡す(見出しだけのテンプレを貼って「この形で埋めて」)③使い道を言う(そのまま貼る・上司に転送する)。
- AIは”形”に敏感:書式を変えただけで正答率が最大76ポイント振れた研究も(2023年)。形の指定は、答えの質の指定でもある。