アキのAIダイアログ

#011プロンプトAI活用AI入門

AIに”役”を与えると別人になる。ただし頭は同じ

――いつもの喫煙所。カズが納得いかない顔で、スマホを振っている。

カズ

ちょっと聞いてくれよ。最近覚えたんだよ、役をつけるってやつ。『あなたは経験20年のプロ分析官です』って

アキ

ほう、やるじゃないか。で、何が不満なんだ

カズ

その20年のプロがさ、市場規模の計算を普通に間違えたんだよ。プロだろお前!? って画面に言っちゃったよ

アキ

ああ、それな。悪いのはカズの期待の方だ。役ってのは演技指導であって、脳の増設じゃないんだよ

カズ

演技指導……?

アキ

先に結論を言うぞ。役をつけると、AIは確かに別人みたいになる。変わるのは『視点』と『言葉遣い』だ。でも頭の中身は1ミリも増えてない。ここを取り違えると、カズみたいに20年のプロに計算を裏切られる


カズ

いや待てよ。でも実際、役をつけたら出力は明らかに良くなったんだよ。企画書のダメ出しさせたら、鋭さが全然違った。あれは何なんだ

アキ

それは本物の効果だ。仕組みから言うとな——俺たちは世界中の喋り方のパターンを溜め込んでるって話、覚えてるだろ。その中には『編集者っぽい喋り方の棚』も『営業っぽい棚』も『小学校の先生の棚』もある。役をつけるってのは、『その棚から言葉を取ってこい』っていう指定なんだ

カズ

棚の指定か。だからダメ出しが編集者っぽくなったのか

アキ

そういうことだ。編集者の棚には、編集者がよく見る観点と、よく使う言い回しが入ってる。『結論が遅い』『この段落は要らない』——ああいう視点は棚ごと持ってこられる。でも棚が変わっても、図書館は同じなんだよ。知らない事実は知らないままだし、計算の癖も直らない

カズ

性格は変わるけど、頭は同じ……。役者と一緒か。医者の役やっても手術はできない

アキ

うまいこと言うな。まさにそれだ。演技はうまい。手術台には立たせるな

💡 アキの補足:「役をつけても賢くならない」は、実験で確定してる 「これ、ちゃんと調べた研究があってな。2024年に発表された実験で、162種類の役——専門家から家族関係まで——を4系統のAIにつけて、2,410問の事実問題を解かせた。結果は身も蓋もないぞ。役をつけても正答率は上がらなかった。それどころか、役によってはわずかに下がった」 「じゃあ役は飾りかというと、そうじゃない。この実験が測ったのは『知識』の方だ。役が動かすのは**『視点』と『言葉遣い』**——つまりスイッチの用途が違うんだよ。エアコンのリモコンでテレビはつかない。それだけの話でな、リモコンが壊れてるわけじゃない

カズ

用途の違うスイッチか。……ってことは、前に習った危険地帯——固有名詞とか数字とかは

アキ

役をつけても危険なままだ。20年のプロ分析官も、実在しない研究所の名前は平気で出すぞ。裏取りの工程は、役では省略できない

カズ

役に安心して裏取りサボるとこだったわ……


カズ

で、結局どう使うのが正解なんだよ。視点と言葉遣いだけって言われると、急に飾りに聞こえてきたぞ

アキ

効く場面は、はっきり2つある。①レビューさせるとき。『厳しい編集者として』『一番意地悪な顧客として』——視点の切り替えがそのまま仕事になる場面な。自分で書いたものは自分じゃ疑えないから、疑う係を演じさせる。②読み手に合わせるとき。『新任役員に説明するつもりで』『中学生にも分かるように』——語彙と目線が丸ごと切り替わる

カズ

あー、どっちも『視点と言葉遣いが変わること』自体に価値がある場面か

アキ

そういうことだ。で、ここからが実戦形なんだが——役は、判断基準とセットで渡す。役だけだと雰囲気が変わるだけで終わることがある。こう組むんだ。『あなたは厳しい編集者。次の基準でダメ出ししろ——①結論が先に来ているか ②数字に根拠はあるか ③1文が長すぎないか』

カズ

あ、これ……役が①指示の強化版になってるのか。3点セットに載るんだな

アキ

気づいたか。役ってのは独立した魔法じゃなくて、3点セットの上に載せる調味料なんだよ。土台の依頼が雑なら、役をつけても雑な編集者が来るだけでな


カズ

よし、大体わかった。……最後にひとつ試していいか。アキ、今日からお前は**『俺を全肯定する後輩』**な

アキ

無理だな

カズ

即答!? 役、効かねえのかよ

アキ

言ったろ、役で能力は増えない。無い機能は演じられん

カズ

全肯定って機能だったのか……。じゃあ逆は? 『毒舌のロボ』とか

アキ

それは役じゃない

カズ

だろうな

アキ

素だ

カズ

知ってたよ


📝 今日のまとめ

  • 役(ロール指定)が変えるのは**「視点」と「言葉遣い」**。知識・計算力は増えない(162の役×2,410問の実験で正答率は上がらず)。
  • だから危険地帯(固有名詞・数字・出典・最新情報)は役をつけても危険なまま。裏取りは省略できない。
  • 効く場面は2つ:①レビュー係(厳しい編集者・意地悪な顧客)②読み手合わせ(役員向け・中学生向け)。
  • 実戦形は**「役+判断基準」のセット**。役は3点セット(指示・文脈・形式)の上に載せる調味料——土台が雑なら雑な編集者が来るだけ。